四個まとめて作るから、一個目の納品日に間に合わんのじゃよ
なぜ人はまとめて作業をしようとするのか?
その方が早く作れる勘違いはどこからくるのか?
ほんとうに単純な事なんです。ここがわかるとね。
今日はいろいろな商売の方の事例が出てきます。
あなたのお仕事・あなたの商売に置き換えるとどうですか?
そこを考えながら読んでいただくと、とてもためになります。
それでは、第8話です、どうぞ。
第8話 他人と同じことを、常識的にやっておっては経営は成り立たんのでね。
この常識というものもくせもんで、案外いい加減なとこがある。常識で考えると、大量生産なら一個ずつ作るより早くできそうな気がする。しかし、そうじゃないんですね。
ここに仮りに十秒で一個できる品物があるとする。もしこれを分業の大量生産で一万個作ったら、一万掛ける十秒で約二十八時間かかる。
こういう作り方をしておると、仮りに四百個だけ早く欲しくても、一万個全部できるまで待たないといけない。しかし一個流しすれば、確実に十秒に一個できるんでね。
これは実際にあった話しなんですが、岐阜に「トヨタ方式」の指導を受けて、一個流しで家具を作って、それまでの見込生産から「受注後三日以内にできます」といって受注生産にきりかえて商売しておる木工家具工場があるんです。
そこへ、ある家具屋が婚礼家具を一セット持ってきて「これと同じのを二週間以内に四セット作ってくれ」といってきた。
聞いてみると、お客さんから注文を取ったのはいいが、その商品を作っておった家具工場がつぶれたというんですね。それで同じ物を作ってもらおうと、いろんなところへあたったが、とても二週間じゃ無理とどこも引き受けてもらえない。それでとにかく何とかして欲しいと泣き付いてきたそうです。
そこでその家具工場の人が、同じ日に四セット同時に必要なのかと聞いたんですね。もちろんそんなことはない。二週間後に必要なのは必要なんだけれど、婚礼の日取りは皆ずれている。
そこでとにかく、お客さんに納品の優先順位を付けて、できた順に一セットずつ納めっていったらどうやらなんとかなりそうだ、ということになったんです。
で、けっきょく図面を引く時間や専用の工具を注文する時間を加えても、全部二過間以内にできてしまったというんです。できたその都度に一セットずつですから、運搬する家具屋の方も小さなクルマで済んで楽ですわね。
これを大量生産でまとめてつくるやり方をしとると、四セット分まとめて切っちゃあ全部切り終るまで置いておき、全部まとまったら運んで、というような「ダンゴ」をするもんだから、きっきの話しと同じで最初の一セットが欲しくても、全部できるまで待たにゃならんどころか、そんなことしとる日にゃとても間に合わんということになるのです。
その後、その工場は何社かで協同組合作って、「三日以内にできます」というのを売りもんにして家具売って、繁盛しとるそうです。家具屋に置いてある商品買ったって、届けてもらうのは一週間近くかかりますからね。受注でもこっちが早いとなれば、お客もそりゃ気にいった物作ってもらおうかという気になりますよ。
最近じゃあガス器具屋までその仲間に入っとるそうです。コンロ売るかというとそうじゃない。大体新しいガス器具買うというところは、新築か引っ越したところかですから、食堂セットの家具を買う可能性が多いんですな。で、ガス器具を売るついでに食堂セットも売ろうということだそうです。
(他人と同じことを、常識的にやっておっては経営は成り立たんのでね。 終)
お客様の望むタイミングって、ほんとうにそのタイミングを望んでいるのか?ここをしっかりと確認してみる必要があります。
それに作り方の話。ダンゴ生産がいかに悪いかは説明しましたけど、クリーニング店はいまだダンゴ生産が一般的な考え方です。しかし世間のモノづくり工場は、こうしたダンゴ生産をしているところなんてありません。
どうして変えられないのか?
それは、機械メーカーが見合った商品を出さないことが一番悪いと思います。
なぜそのような機械が出てこないのか?それは、クリーニング店が要望しないからです。
なぜ要望しないのか?それは、クリーニング店の皆様がモノづくりの仕組みを理解していないからです。
まだまだ勉強することは、山ほどあります。
だからね、これからもチャンスありますよ。
(明日もお楽しみに)
出展:伊藤良哉著・クリーン忍術心得帖パート1(ゼンドラ出版)
クリーン忍術心得帖 パート1(復刻版) (2004年06月10日発売) | 【Fujisan.co.jp】の雑誌・定期購読