居るはずだった我が子のいす。ディズニーランドのお子様ランチ
マニュアル通りの接客サービスには、心が動かされることはありません。
人の温かさと、愛の感じる接客サービス、これが大切です。
このディズニーランドのお子様ランチ…心に響くカウンターセールスの言葉そのものです。
あなたならどんな対応(サービス)をいたしますか?
★ディズニーランドのお子様ランチ★
お店はなぜ、なんのために必要なのでしょう。あなたという「人」はなぜ、なんのために、かけがえがないのでしょうか。
今の時代にあっては店が無くても、人がいなくてもお客様はクリーニングに困ることはありません。
セブンイレブンの受付ボックス。24時間無人自動お渡しシステム。ボックス乾燥機から仕上げのプレス機まで備えたコインドライ。傍らでは、深夜まで「ご用聞き」に来てくれる外交営業さん。
クリーニング店の前に立ち、「人」のいない無人のカウンターをガラス越しに見るたびに、心寒く暗い気持ちになってしまいます。どんなに明るく、きれいであっても、私の目には空き家か倉庫にしか映りません。心から訊ねます。
あなたのお店は、お客様にとって嬉しく、楽しく、気持ちいい場所ですか?
あなたの存在は、お客様の心を満たし、心を癒すのでしょうか。
★心を癒す★
訪れる多くの人を、そのほとんどの人たちを、嬉しく・楽しく・気持ちよくしてくれる場所は、東京ディズニーランドにちがいありません。一度のみならず、何度も何度も人は足を運びます。
ディズニーランドでは実に大人数のアルバイトさん、パートさんが働いているそうです。
数多くあるディズニーランドのレストラン。そのひとつにある日三十代半ばを過ぎたくらいのご夫婦が来店されました。接客したのはアルバイトの若い女の子です。ご夫婦をテーブルへと案内し、注文を受けたまわりました。
先にご主人が注文しました。そして奥さん。最後に奥さんが、『お子様ランチをひとつお願いします』と追加されました。ご夫婦お二人だけです。それぞれご自分の注文が終わったあとのことです。アルバイトの若い女の子が確認しました。
『お子様ランチでございますね。』
ご主人がこたえました。
『ええ、お子様ランチをひとつ追加してください。私たちには子供かいました。その子はディズニーランドが大好きでした。一日遊んだあと、ここでお子様ランチを食べるのが、なによりの楽しみでした。今日は、あの子の誕生日だった日です。いつものお子様ランチをお願いします。』
女の子は『はい』と申し上げ、ご夫婦のテーブルを離れます。そしてすぐに戻ってきました。彼女は子供用のイスを運んできたのです。ご主人と奥さんの間に、小さな子供用のイスが、静かにおかれました。
ほどなくして運ばれたお子様ランチ。誰も座ることのない、小さなイスの前におかれたお子様ランチには、ミッキーマウスのカードがそえられていました。
「いつまでも、お誕生日をお待ちし続けています。」
◇◇◇
★心の姿★
私が彼女だったら、いったいなにができたでしょうか。
有名なディズニーランドの接客マニュアル。そこに一行も載っていないことを、彼女は自分の心のままにしてあげられたのです。
あなたが彼女だったなら、いったいなにをしてあげられたでしょうか。
つらい時だからほほえむのです。
悲しい時こそ笑顔が必要なのです。
心を満たすことがかなわぬことでも、心を癒すことを忘れないでください。それができるのは、カウンターにたつあなただけなのですから。
ディズニーランドのお子様ランチ。彼女はいつも私たちに心の姿、心のありようを純粋に問いかけています。
(ディズニーランドのお子様ランチ 終)
つらい時だから悲しい時だからこそ…簡単にできることではありません。
しかし、人の感情は正直ですから、感情の赴くままにお客様への心を示せば、マニュアルがなくてもこうしたサービスはそれほど難しくはないです。
店員もお客様も同じにんげんなんですから。
(明日もお楽しみに)
出典:小笠原範光 著・心に響くカウンターセールス(ゼンドラ出版)
定価2880円(本体2667円)