ZENDORA BOOKS BLOG

とってもとってもニッチな会社!クリーニングの業界出版社・ゼンドラ株式会社より発行しております、書籍紹介のブログです。クリーニング店の皆様だけでなく、どなたでもお読みいただける内容をまとめておりますので、ぜひとも気軽に読んで楽しんでくださいね。

外交と御用聞きは、主体となるものが違うことを知るべし

今日から新しくお勉強です!
みなさま、よろしくお願いいたします。

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第1章  外交の本質

 

9時50分。

「間に合ったな」

「約束の時間は、9時52分だったよね」

「でも、中途半端な約束の時間だな…」

 

中山親子は、こんな会話をしながら藤川の店へと入って行った。

 

「はじめまして。中山です」

「息子の幸二です」

二人は緊張した面持ちで、藤川に名刺を差し出した。

 

「どうも、藤川です」

お互いの挨拶が終わると、藤川はさっそく本題を切り出した。

 

「電話では、外交を始めたいとの事でしたが」

「はい。ご多分に漏れず、当店も売上の低下が激しくて、色々対策を取ったのですが、どうもぱっとしないのです」

 

沈んだ顔で、中山社長が話し出した。

 

 

売上の低下はこの中山クリーニング店に限らず、業界全体でもかなりの低下が見られる。

 

総務庁統計局から発表されている「家計調査」の一世帯あたりのクリーニング支出は、平成4年に1万9243円のピークをむかえ、平成13年では、1万1029円まで下がり、率にするとなんと42・7%も下がっている。

「色々考えた末、新たな店を出すよりも外交部門を立ち上げようかと思いまして」

「外交ですか」

藤川が答えた。

 

「ええ、この時期に大きな投資をするよりも、少ない資金で始められて、それでいて効率良く売上があがると思ったのと、外交は私が若い時に行なっていましたので、ちょっとは自信もありますし…」

 

遠慮がちに中山社長が答えた。

 

「外交の初期投資は確かに、少ないですね」

「でも、ご存知のように東京での修業を終えた息子の幸二が帰ってきて、その成果とでも言うのでしょうか、向こうで習ってきたことをさっそく店で始めたのを見ていて、自分のやり方とずいぶん違うことに気付いたのです」

 

幸二が修行に行っていた店は、藤川の師匠の店だった。

 

計数管理に基づく計画立てたその経営手法は、藤川自身の経営手法にも多大な影響を与え、店の経営方針を大きく変化させていた。

 

「幸二の話や、やっていることを見ていて、この時期でも伸びている会社は、店の経営手法が自分のやり方とはずいぶん違うということが分かりました。おそらく外交でも自分のやり方は、今では通用しないのではないかと思ったのです」

 

戦後近代クリーニングが始まった当時は、クリーニングの営業形態は、「御用聞き」であった。

 

しかし、「御用聞き」から「取次店」や「ユニットショップ」が生まれ、本来の「御用聞き」は「外交」へと進化していた。

 

中山社長は、自分がやってきたのは「御用聞き」であって、「外交」とは違うのではないか。もしそうであれば、店を救う為に始める外交のはずが、自分のやり方では、店を救うどころか、せっかくやる気を出している息子まで潰してしまうのではないか。と思い悩んだあげく、藤川に相談に来たのだった。

 

「通用しないと言うより、「外交」と「御用聞き」の違いを分かっていないと、売上を伸ばしていくことは、かなり難しくなります。何故かというと、確かにクリーニング品を集配することは同じなのですが、その主体になるものが違うのです」

 

「主体ですか?」

 

いきなり「外交」と「御用聞き」の違いの話に、それも「主体」といった難しい言葉が出てきて、驚いた中山社長が言った。

 

「ええ。外交は、直接お客様の所にお伺いをして、クリーニング品を集配することと、その言葉の意味通りに見込み客に対して、勧誘し交渉してお客様になって頂く仕事をしますが、この新規のお客様を増やしていく時に、旧来の「御用聞き」と「外交」の違いがでるのです」

 

「でも、「御用聞き」も新しいお客様が出来ていたはずですよ」

幸二は、同じ師匠を持つ安心からか、積極的に藤川に尋ね出した。

 

「それでは中山社長にお聞きしますが、昔「御用聞き」をしていた時はどのあたりをまわっていましたか?」

昔を思い出しながら、中山社長が答える。

「そうですね、自転車でまわっていたので、どちらかというと店の近所をまわっていたように思います」

「何か特別なこと、例えばチラシとかをまいた記憶がありますか?」

「いえ、なかったように思います」

「じゃぁ、どうして新しいお客様が増えたのでしょうか?」

「う~ん」

 

よくよく考えてみると、中山社長は新しいお客様の獲得を、あまり積極的にはしてこなかったように思えた。でも、新しいお客様はそれなりに増えていた。

「たぶんそれは、お客様の方で店を知っていたので、向こうから集配の依頼があったからと、紹介と顔見知りが多かったからだと思います」

 

中山社長は、苦しげに答えた。

 

「ということは、けっこう商圏が狭かったのと、お客様の方から集配の依頼があったと言うことですね。移動手段が今とは違うと言うこともありますが、「御用聞き」は、あくまでも店を中心とした狭い商圏でその集配業務をおこなう為に、色々な制約があったのと、お客様から集配の依頼を待つという受身の営業なのです。一方「外交」は、料金や納期、品質といった基本的な制約はありますが、何処で集配を行なうかといった商圏の制約や、それをおこなう時間などの制約が一切ありません。こちらから自由に、そして積極的にお客様の所へ伺います」

 

「ということは、さきほどの「主体」とはいったい何でしょうか?」

中山社長が尋ねた。

 

「御用聞きの場合は、店を中心に考えていますので、店が主体となりますが、外交の場合は、それをおこなう人自身が主体となります」

 

「人が主体と言うことは、人=店ということですか?」

幸二が尋ねた。

 

「そうです。人=店であって、それも移動する店と考えた方が分かりやすいでしょう。ですから、極端な場合、実際の店が無くても外交はできることになります。その証拠に私の場合も最初は店がありませんでした」

 

「店が無くてもいいのですか?」

幸二は、驚いて尋ねた。

 

「ええ。もちろんクリーニング品を置いておく場所はいりますが、店を構えていなくても全く問題なく外交をおこなうことが出来るのです」

幸二は今まで自分なりに考えていた「外交」とはずいぶん違うと思い始めていた。

 

 

★この章のポイント 

  • 外交とは何かを理解した上で始めなければならない。 
  • 外交の仕事とは、被洗物の集配業務と新規顧客の獲得である。 
  • 商圏や時間の制約はない。
  •  外交の主体は店ではなく、それをおこなう人自身である。
  •  積極的な営業活動でなければならない。

 

(第1章  外交の本質 終)

 
 

明日もお楽しみに


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瀧藤圭一著
ルート外交マニュアルほか書籍一式