ZENDORA BOOKS BLOG

とってもとってもニッチな会社!クリーニングの業界出版社・ゼンドラ株式会社より発行しております、書籍紹介のブログです。クリーニング店の皆様だけでなく、どなたでもお読みいただける内容をまとめておりますので、ぜひとも気軽に読んで楽しんでくださいね。

母から子へ、そして孫へ。一枚の振袖に込められた想い

母から子へ、そして孫へ受け継がれる振袖一枚。

 

たかがクリーニングと思うかもしれません。しかしクリーニングされる商品一点一点には、思いがけない、かけがえのない心が込められている場合があります。

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〈4〉 料金を教えてください

想い思う

季節の移ろいを女性の装いに強く感じます。今年のお正月は元旦から仕事始めまで、着物姿の女性を目にすることがまれでしたが、成人の日には華やかで美しい着物姿の若い女性をたくさん見うけました。

 

成人の日といえば、私の妻は成人式の5ヶ月前に母を亡くしています。

 

クモ膜下出血というあまりに突然で享年45歳というあまりに早すぎるお別れでした。母を亡くし、父親と二人だけの生活になってからひと月ぐらいのころでした。京都の呉服店から思いもしない電話が入りました。

 

「ご注文受けたまわっておりますお振袖ですが、お仕立てするとどうしても少し絵羽模様が合わなくなってしまいそうです。よろしければもう一度反物からごらんいただけませんでしょうか」。

 

妻は驚きました。受話器を握っている手に力が入り汗ばんでしまったそうです。

 

「母が注文していてくれたのですね」、そう問いかけるのが精いっぱいでした。亡くなったお母さんが成人式の晴れ着をたのんでいてくれたことを妻も父も聞かされていなかったのです。振袖は母が注文したとおりに寸分たがわず仕立ててもらいました。

 

成人式の当日です。美容院で母の遺してくれた振袖を着つけてもらいました。着つけを終え妻の向った先は成人式会場ではありませんでした。まっすぐお寺に向いました。誰より、そしてなにより、一目でも見たかっただろう母のお墓に、成人の振袖姿を見てもらったそうです。どのくらい両手を合わせていたことか……。

 

お寺からの帰り道、商店街の写真屋さんに入りました。自分への思い出に一枚だけ写真を残したくなりました。写真屋さんのおじさんに、「さぁ笑って」、「にっこり微笑んで」、「もっと笑顔で」、そう声をかけられるたびに涙がこみあげてきたそうです。

 

・・・・・・それから30年がたちました。

 

今年の1月12日、月曜日。30年前に妻が着て成人式をむかえたその全く同じ振袖を着て、娘が成人式をむかえました。美容院で着つけてもらい、向った先もやはりお寺です。娘は会うことができなかった祖母の墓前に手を合わせました。祖母が母に遺してくれた振袖の意味を理解できる年齢になりました。娘はその振袖の心に響く重さを、きっと実感してくれたにちがいありません。

 

 

感情の対価

感覚的体験価値について述べています。事実として、さらに誠実にお伝えいたしたく、私事を語りました。この一月、私が経験した事実であります。

 

妻の亡き母があつらえてくれ、妻から娘へ受けつがれ、さらにはまた娘から子へ受けつがれよう。想いつがれ、思いつながれ、語りつがれるでありましょう振袖です。クリーニング料金はおいくらでしょうか。妻はいま、おまかせする先を真剣に悩んでいます。

 

感情の対価に価格競争はないという真実に心開いてください。感動に値付けは不要です。

 

感覚的体験価値の創造とは、その根幹を感受性に深く強く依拠します。気づく力、感じる力、思いやる力、想いはせる力が源泉です。

 

(売れるクリーニング <4>料金を教えてください 終)

 

 

 

感覚的体験価値の創造

 

 

感情の対価に価格競争はない…

これに尽きます。

 

この商品、あなたならどんな値付けをいたしますか?

 

 

(明日もお楽しみに)

 

出典:小笠原範光 著・売れるクリーニング(ゼンドラ出版

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定価3024円(本体2800円)