似て非なる、大きなお世話とよけいなお世話の大違い
人と人の関係性が希薄化している気がしてなりません。近所の挨拶はどこか形式的になり、スマホやパソコンに向かっている時間が長ければ長いほど、近くに住む隣人より遠方のネットでのつながりが、親密だと思いがちです。
もうひとつ
コンビニのカウンターで、店員さんと目と目が合いますか?
最近は客もよそを見て、店員もレジとつり銭を渡す手を見ています。目が合うことは、ほぼ皆無です。
そしてギクシャクしているところは、こんなところにも現れます。
手を前にそろえて…丁寧に…
『ありがとうございますm(_ _)m』
コンビニエンスストアやファーストフード店で行われている、マニュアルで決められた形式的なあいさつです。
こんなマニュアル挨拶を行なうより、お客様の顔を見て・目を見て・ニッコリ笑顔で
「いつもありがとう」この方が、どれだけ心がこもっているか。しかし、実践しているところは少ないです。
今日は
そしてお世話の内容とその違いについて
★大きなお世話
午後十一時の閉店時間をむかえました。取次K店の小泉幸枝さんは、ストックバーの汗とりダブルで仕上がった学生服を見つめています。急ぎ品でした。
この学生服は照井さんの奥さんがお出しになってたもので、中学二年の政教君の上下です。あすは日曜ですが、政教君は部活でこの学生服が必要なはずです。あした朝九時の開店時間では、部活に間に合わないことも知っています。政教君の陽に灼けた顔が浮かんできます。
『今夜の晩ごはんは三十分遅れます。いいわね。』お店のシャッターを降ろした後、奥の家族にむかって幸枝さんは宣言しました。
『オイオイ、引き取りに来ないほうが悪いんだよ。わざわざ届けに行くこともないだろう。電話でもしたら。』
事情を聴いた小泉さんのご主人は不服そうです。
『照井さんの奥さんは凡帳面な人なの。忘れたり、理由なく引き取りに来ない人じゃないわ。いいわ、私走る』
幸枝さんは政教君の学生服をもって、お店をあとにしました。小泉幸枝さんは本当によく走るんです。町内では“走るクリーニング屋さん”とも呼ばれているそうです。
ほどなくして、照井さんのお宅が見えてきました。電気がついている。よかった、不在じゃなかった。チャイムを鳴らします。そしてドアが開きました。
『おまちどうさま。政教君の学生服です。』
幸枝さんは、いつだってそれがあたりまえのように『おまちどうさま」―そう言葉にだして気持ちを伝えます。走ってきたんで、ちょっと息がはずんでいました。おでこにも、少しだけ汗が浮かんでいます。
『おまちどうさま』―このたったひとことが、どんな多くの言葉より、幸枝さんの誠意を照井さんの奥さんに伝えたかは、言うまでもありません。
★喜ぶ顔が好き★
『私ね、時々「大きなお世話」、そういわれてお客さんからしかられちゃうんじゃないかナって、ちょっと心配になることもあります。でも私、病み付きっていうか中毒なんです。エエそうなの、お客さんの喜ぶ顔のこと。お客さんの喜ぶ顔が見れたとき、ダイゴミっていうか、ヤッターっていう最高の気分になるの。このクリーニングの仕事って、お客さんに喜んでもらうのに、やろうと思ったらいろんなことが工夫できるじゃない。すこし体を使うこともあるけど、ウンドウ、ウンドウ。お客さんの喜ぶ顔が見られるなら、ゼッタイそれがやりがいです。だって私の気持ちも、うれしくなるんです。』小泉幸枝さんはいつも、そしてだれにでも笑顔です。
★大きなお世話よけいなお世話★
わたしたち日本人が昔からやってきた商売のありかたは、「大きなお世話」をお客にし続けることです。それでは「大きなお世話」と「よけいなお世話」はどう違うのでしょう?
「大きなお世話」をするためには、相手のことがわかっていなければいけません。町内の一人一人と顔見知りであり、ふだんから、すすんで挨拶をかわすことです。ご近所の人たちと人間関係ができていて、お客様の家族構成から衣服の好み、生活レヴェルといった情報までもつことです。
そしてそれらの情報をもとに、一人一人のお客にそのお客にあわせた気配りをし、親身に世話をすることです。お客と人間関係―コミュニケーションが成立していて、お客の事情に合わせたお世話であれば、決して「よけいなお世話」になることはありません。
まわりを見回してごらんなさい。八百屋さん、魚屋さん、小さなブティックできえ、繁盛しているお店はみんな大きなお世話をしているはずです。
★超ベリーサンキュー★
日曜の午後でした。幸枝さんが、ご主人に店番をすこしかわってもらっている問のこと。部活帰りの政教君がお店をのぞいたそうです。そしてご主人に『おばさんにこれ渡して』とぶっきらぼうに言って、二つ折のレポート用紙を渡していきました。
(大きなお世話 終)
お客様に親身になり、「大きなお世話」を提供し続けること。
とても素晴らしいことです。私も、こんなクリーニング店があったら、きっと他の店に目移りすることはありません。
これはクリーニング店の話だけではありませんね。
仕事を進めるうえでも同様。お客様・同僚・部下・上司、相手がだれであれ、ある時は大きなお世話で感謝され、ある時はよけいなお世話と嫌われます。
よけいなお世話とされないために
- あいさつからはじまるコミュニケーションの深化
- 観察力を磨きタイミングよく
必要なときに・必要なことを
まるでジャストインタイムですが、サービスとはまさに、このちょうど良いタイミングで提供されることが大切です。
仕事のデキル人は、仕事の内容・質より、提供するタイミングがとても上手なのです。このタイミングを磨くには、何をすればよいのか?
それは、「いま、ここで、私自身がサービスを受けたら嬉しいな!」と、相手の気持ちになり、感じれるようになること。感謝の気持ちに敏感になることです。
つまり、相手に対して感謝の心を抱けるか…に尽きます。
話を戻します。
すべてはここから。相手の目を見てコミュニケーションを図らなければ、心のこもったことは何一つできませんね。
目は口ほどに物を言う
仕事も、商売も、コミュニケーションも
目と目を合わせることから、スタートです。
明日もお楽しみください。
出典:小笠原範光 著・心に響くカウンターセールス(ゼンドラ出版)
定価2880円(本体2667円)